あまぐも わたぼ 日本語Ver

 



 あまぐもわたぼ





むかし お菓子の村に「わたあめのわたぼ」という名のぼうずがおった。





お菓子の村は、平和で美しい村じゃったので、みんなにこにこと笑って、陽気に楽しく暮らしておった。それは、甘くて大きなお菓子になるのにとても大切なことじゃった。

じゃが、わたぼは小さな時からいつも眉間にしわを寄せて、ちっとも笑わん。大きくなるにしがってどんどん色が黒くなってしもうた。


このままでは白くてりっぱなわたあめになれんと心配した両親が、わたぼに問うた。

「なぜ、おまえはいつもそんなこわい目をしておるのじゃ? そんなことでは、りっぱなわたあめになれんぞ。」




「わたあめになんぞ、なりとうない。」

と答えたので、二人はびっくりしてしもた。

「おまえはどうするつもりじゃ?」

「おら、雲になる。強くてりっぱな雨雲様になるんじゃ」

父と母は互いに顔を見合わせた。

「雨雲様に? それは無理というものじゃ。」

「おまえは、わたあめになるために生まれてきたんじゃ。あまくて白いわたあめになることだけを考えていればいい。」

と大笑いするもんじゃから、わたぼはいたたまれなくなって、思わず外に飛び出した。

 


野原までくると、空にはたくさんの雲たちが、ゆうゆうと北の方へ流れていくのが見えた。

(おらと雲はこんなに似ているのに、どうしておらは雲になれんのじゃろか?)




「おーい くも様 くも様。」

「誰じゃあ? わしらを呼ぶのは?」

くもの声はのんびりしてはいたが、それはそれは大きな声でまわりの山々にこだました。

「おらじゃ。わたあめのわたぼじゃ。」

「なんじゃ?あまりにもちっさいんで、ここからじゃよう聞こえん。もうちっと、大きな声で話してくれんかの?」

雲が一言話すたびに、風は吹き付け木々がゆれた。わたぼは飛ばされんようにしっかりと、石にしがみつきながら叫んだ。

「おら、大きくなったら雨雲様になりたい。どうしたらなれる?」



雲たちはそれを聞いて大笑いした。

「無理じゃ、無理じゃ。そんなちっさいくせに何ができるとおいんじゃ?」





雲たちがあまり笑うにもんじゃったから、その日は一日中お菓子の村に風がふきあれてしもうた。

わたぼはくやしかった。そして一晩中考えて決めた。

(この村にいたんでは、雨雲様にははれん)。

「おら、旅に出る。どうしても雨雲様になりたい!」

両親はなんとかなだめようとしたけれど、わたぼの決心はもう変わらんかった。



父さんは、後ろをむいたきり何も言わんかった。母さんは、お砂糖のおにぎりを何個も作って持たせてくれた。


「気いつけてな。身体を水にぬらすでないぞ。とけてなくなってしまうからな。」



何度もそう言いながら、わたぼの後ろ姿をずっと見送っておった。


思い切って村を出てみたものの、どこへいったらいいかさっぱりわからん。とにかく南へ南へと向かっていった。

(雨雲様は南の方から北の方へ旅しておられるようじゃ。南へ向かえば雨雲様に会えるかもしれん)。



そのうち、おにぎりもみんな食べてしまった。

それでも南へと歩き続けたわたぼじゃったが、あんまり腹がへって目が回るんで、とうとう木のねっこのところにペタリと座って動けなくなってしもうた。

 




しばらくしてわたぼは、誰かが自分の身体をゆすっているのに気付いた。目をあけるとねずみがのぞき込んでいるのが見えた。

「だいじょうぶか? 見かけん顔じゃのう。」




「おら、わたぼ じゃ」

「おらは、三吉。あんまり起きんもんじゃから、死んどるのかと思うたぞ。

「おら、腹へって死にそうじゃ。」

「なんじゃ。腹がへってたのか。」

三吉はそう言うと、砂糖のかけらを、わたぼにくれた。

 


その日から、わたぼと三吉は友達になった。三吉のお父さん、お母さん、仲間たちもとても優しくしてくれた。

 





わたぼが雨雲様になりたい三吉に打ち明けた時も、

「それはすごい! わたぼならきっとなれる!」

自分も、えらいねずみになるのがゆめだと話してくれた。すっかり嬉しくなったわたぼは、三吉の家で雨雲様がやってくるのを待つことにした。

 


その年の夏も終わりに近づいたころ、突然ねずみたちの村に雷鳴がとどろいた。

秋の嵐がやってきたのじゃ。





わたぼはこれで雨雲様と話しができると喜んだ。けど、雨は夜になっても降りやまん。こんなにたくさんと雨が降っていたのでは、外に出て雨雲様に話しかけることもできん。

わたあめはあんまりたくさんの水にぬれるととけて、のうなってしまうからじゃ。

 

次の日も雨は降りやまず、ついに川の水があふれだした。

「てっぽう水がやってくるかもしれん。丘の上まで逃げよう。」

三吉の父さんは、仲間たちに言った。




それは大変と、ねずみたちは丘へと駆け出した。

わたぼも、わら笠とかぶると、三吉と一緒に丘へと急いだ。

 



その時、一気に水が流れ込んできた。
逃げおくれた母さんを助けようと、三吉が水の中へと飛び込んだ。

「行ったらいかん!」





ねずみたちは口々に叫んだが、わたぼは水の中へと入っていくと二人の身体をふわりと包み込んだ。



「しっかりつかまってろ。おらの身体は水に浮く。」

水はどんどん流れ、三人を下流へと押し流していった。

 





気が付くと、仲間たちが三吉たちを取り囲んでおった。

(助かった!)

三吉は思った。




じゃが、わたぼの姿が見えん。

「わたぼは?」

仲間たちは、しずかに首をふった。

「わからん。おいらたちが来た時には、わたぼはいなかったんじゃ。」

「わたぼ、おーい、わたぼ。どこにいるんじゃ。」

三吉は叫んだ。けど、返事はかえってこなんじゃった。



ねずみたちは泣いた。わたぼが水にとけてしもうたと思い泣いた。

優しくて勇敢なわたぼを思い泣いた。

三吉の涙が、水たまりに落ちた。

すると…



雨雲様の間から、太陽の光がすっと差し込んで、水面にキラキラと反射した。ゆらゆらと、水のしずくが水蒸気になって空にのぼって行くのが見えた。

「三吉、おらはここじゃ。」

わたぼの声が聞こえた。

「どこにいる? 出てこい!」

三吉は叫んだ。


「おらの身体は水にとけて、のうなってしまった。

だけんど、おらは雨雲様と話しをしたで。おらは水と一緒に空にあがって雨雲様に弟子入りする。

いつかこの村に雨を降らせにくる。めぐみの雨じゃ。みんな、それまで元気でな。」



わたぼの声が、こだましてだんだん小さくなっていった。

三吉たちは、いつまでもキラキラと空に上っていく水のしずくに手をふっておった。

 

おしまい。


挿絵:© T


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#児童小説 #絵本 #夢

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